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海とプラスチック

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海に漂うプラスチック

 

1997年、海洋環境調査研究者チャールズ・モアが

 

北太平洋でプラスチックごみの吹き溜まりを発見しました。

 

その時の光景を、彼は著書の中で

 

プラスチックでできた薄いスープと表現しています。

 

プラスチックの破片の中に

 

もつれた漁網やブイ、ウキなど

 

多種多様なごみが浮かんでいたというのです。

 

プラスチックごみによる海洋汚染は

 

1970年代から指摘されていました。

 

この汚染源の一つは、

 

プラスチック製品の加工原料として

 

使われる樹脂ペレットでした。

 

樹脂ペレットは、

 

プラスチックを一度溶かして

 

粒状にしたもので、

 

直径数ミリのビーズのようになっています。

 

これはこぼれたりすると散乱しやすく、

 

工場や輸送中のトラックや船から漏れ出したものが

 

海岸や河川敷で頻繁に見つかるようになり、

 

1990年代には、

 

日本も含めた世界各国で

 

ペレット漏出防止対策がとられるようになりました。

 

しかし、それまでにすでに大量の

 

ペレットが海に流れ出ており、

 

世界中の海岸で見つけられている上に、

 

今も漏出していると言われています。

 

また、別の汚染源もあります。

 

よく見つかる汚染源のもう一つが

 

漁船などが意図せずであれ、

 

故意的に投棄したものであれ、

 

投棄された漁具があります。

 

なかでも、漁網は

 

全長何キロにもなるものもあり、

 

ゴーストネット(幽霊網)となって

 

海中を漂いながら海洋生物に絡みつき、

 

時にはその命に関わります。

 

漁船以外にも、

 

観光客をのせたクルーズ船や、

 

巡洋する海軍の船からの

 

不法投棄も確認されているようです。

 

商船が積んでいたコンテナが、

 

暴風などで海中に落下することもあれば、

 

事故にあった沈没船や墜落した飛行機からも

 

プラスチックは流出します。

 

人為的なものだけでなく、不可抗力な災害も、

 

プラスチックの流出にチカラを貸すことになります。

 

2011年の東日本大震災では、

 

膨大な量の家財、自動車、

 

養殖施設などが津波によってさらわれて、

 

一部は北米にまで流れつきました。

 

いまでも推定150万トン近くの瓦礫が

 

世界の海洋を彷徨っていると言われています。

 

このほかにも、

 

沿岸の工業施設や下水処理施設からの

 

流出も汚染源の一つです。

 

ごみのポイ捨ては言うまでもないですね。

 

そして、現在最も問題視されているのが、

 

河川からの流出です。

 

そのうち約8割は

 

中国・インドネシア・フィリピン・ベトナムなどの

 

アジア諸国から流れ出ているものです。

 

それには、埋め立て地やリサイクル工場に

 

山積みにされたプラスチックごみが

 

近くの川に簡単に流れてしまう状況があります。

 

この状況の一刻も早い改善が求められています。

 

 

 

海洋プラスチックと海洋生物の命

 

海洋汚染の影響を真っ先に受けるのは

 

必然的に海に暮らす生物たちです。

 

海洋ごみ問題が広く知られるようになったのも

 

これら海洋生物への深刻な被害が

 

次々と明るみになったことがきっかけでした。

 

1991年、海洋研究開発機構の

 

有人潜水調査船「しんかい6500」が

 

日本海溝の6200メートルの深海で

 

プラスチックごみの堆積を発見しました。

 

このことからもわかるように海洋ごみには、

 

そのまま海岸に漂着するものや

 

海面を漂うものだけでなく、

 

海底に沈むものも相当量あって、

 

海辺から深海までと、

 

広範囲に海全体へ影響を及ぼしています。

 

よく見られる被害の一つは、

 

ウミガメやアザラシなどが、

 

プラスチック製の魚網や

 

ロープに絡まって衰弱死するケースがあります。

 

また、プラスチックの破片や袋を

 

食べてしまうケースもあります。

 

プラスチックは消化・分解されないので、

 

そのまま排泄されればまだいいのですが、

 

大量に飲み込んで詰まった場合、

 

命を奪うことにつながってしまうことがあります。

 

その一例として、近年世界の各地で

 

クジラの死骸から

 

大量のプラスチックが見つかっている

 

ことがあげられます。

 

2019年3月には、

 

フィリピンの海岸に打ち上げられた

 

クジラの胃のなかから、

 

過去最高の重さになる

 

40キロ分ものポリ袋が見つかり、

 

事態の深刻さを突きつけられました。

 

海の生物がプラスチックを食べていることは

 

1962年にすでに報告されていました。

 

海鳥の胃のなかに、

 

プラスチックごみが見つかったのです。

 

それ以来、世界の各国の研究者によって

 

海鳥の調査がされていますが、

 

プラスチックごみが体内から

 

発見される割合は年々増加しています。

 

ポリ袋やボトルキャップ、

 

合成繊維、発泡スチロールの破片など

 

海にあるはずのないものばかりが

 

見つかっています。

 

いまでは、プラスチックを食べてしまう

 

海洋生物は200種類以上と言われています。

 

そして、ウミガメの52%

 

クジラやイルカの56%

 

海鳥の約90%

 

プラスチックを食べていると

 

推計されています。

 

推計といえども、これが現実です。

 

 

 

 

マイクロプラスチックと生態系

 

プラスチックも劣化します。

 

海を漂うプラスチックごみは

 

紫外線や波のチカラによって壊れ、

 

次第に小さくなっていきます。

 

小さくなっても、

 

プラスチックの持つ性質は変わりません。

 

自然に分解されることなく

 

残り続けます。

 

こうしたプラスチック破片のうち、

 

5ミリ以下のものは、

 

マイクロプラスチックと呼ばれ、

 

現在、世界の海に5兆個も

 

漂っていると推測されています。

 

日本近海には、

 

世界平均の27倍もの

 

マイクロプラスチックが

 

漂っているとも言われています。

 

マイクロプラスチックが厄介とされているのには

 

ちょうど動物プランクトンと

 

同じくらいの大きさであること

 

があります。

 

そのため、魚たちは

 

プランクトンと間違えて、

 

マイクロプラスチックを食べてしまうのです。

 

それが、体内に蓄積されて、

 

食物連鎖によって、

 

さらに大きな魚へと

 

移っていく危険性もあります。

 

そんなマイクロプラスチックは

 

私たちの暮らしのなかからも

 

マイクロプラスチックが

 

流出しています。

 

その一つが、マイクロビーズ

 

と呼ばれる1ミリ以下の

 

超微小プラスチックです。

 

角質の除去や洗浄に

 

効果があることから、

 

洗顔料や化粧品、歯磨き粉など

 

多くの製品に使われていますが、

 

下水を通して海へと

 

年間何百トンも流出している

 

と言われています。

 

超極小のため、

 

一度海に出ると回収は

 

まず不可能です。

 

そのため、一部の国では

 

製造や販売が規制されていますが、

 

日本ではメーカーに自主規制を

 

要請することに留まっています。

 

すでに大手メーカーは

 

使用を中止していますが、

 

製品を買う際は、

 

原料を調べてみることをおすすめします。

 

ポリエチレン・ポリプロピレンなどがあれば

 

それがマイクロビーズです。

 

マイクロビーズのほかにも、

 

合成繊維の服を洗えば、

 

洗濯くずが出ますし、

 

メラミンスポンジを使えば、

 

削りかすが出ます。

 

これらが排水溝に流れ、

 

下水処理をすり抜けて、

 

海へと流れ出てしまいます。

 

プラスチックに囲まれた

 

現代の暮らしの中では、

 

マイクロプラスチックの発生源は

 

あらゆるところにあります。

 

すでに、水道水、ペットボトル入り飲料水、

 

ビール、食塩、さらには人間の便からも

 

マイクロプラスチックが検出されている

 

こともありますが、

 

混入経路はわかっていません。

 

人間が摂取したとしても

 

微小なので排泄されますが、

 

プラスチックに付着する

 

化学物質の影響が懸念されています。

 

マイクロプラスチックは

 

生態系を巡り回っていくのです。

 

 

 

 

有害物質の運び屋・プラスチック

 

プラスチックは長期間海水にさらされても

 

化学的に変化することはありません。

 

少なくともプラスチック自体に

 

毒性はないとされていますが、

 

海中を漂ううちに有害化することが

 

指摘されています。

 

化学物質の中には、

 

使用後に毒性が発覚し、

 

製造や使用を中止しても、

 

過去に排出されたものが

 

大気中に残り続けるものがあります。

 

例えば、農薬や殺虫剤として

 

戦後、広く使われたDDT、

 

絶縁油として使われ、

 

日本でカネミ油症事件の原因ともなった

 

ポリ塩化ビフェニル(PCB)、

 

ごみ焼却などによって発生する

 

ダイオキシン類などです。

 

これらは残留性有機汚染物質(POPs)と呼ばれ、

 

分解されにくく、

 

生物の体内に蓄積されやすく、

 

遠くまで移動して、悪影響を及ぼすため、

 

国際条約で規制されています。

 

POPsは、海水中にも存在しますが、

 

極めて低濃度です。

 

しかし、東京農工大学の

 

高田秀重教授の長年の調査研究で、

 

海洋プラスチックごみが

 

汚染物質の濃度を高めることが

 

わかってきました。

 

これの発端は、1998年、

 

神奈川県の鵠沼海岸で

 

採取されたプラスチック片から

 

高濃度のPCBが検出されたこと

 

でありました。

 

POPsは、油になじみやすい性質です。

 

プラスチックは石油からできているので、

 

汚染物質が吸着し、濃縮されいきます。

 

しかも、プラスチック1グラムに

 

海水1トン中の汚染物質が

 

濃縮されていると言われています。

 

さらに、プラスチックに使われる

 

添加剤の中には、

 

有害とされているものもあります。

 

海洋プラスチックごみは、

 

微小化しながら、

 

汚染物質と添加剤という

 

二つの有害物質を

 

世界中に運んでいます。

 

こうして運ばれた有害物質が

 

生物の体内に取り込まれると、

 

食物連鎖によって、

 

次から次へと生物同士で運ばれ、

 

どんどん高度に濃縮される

 

生物濃縮が起こります。

 

最終的には人間にその影響が

 

戻ってくるのです。

 

 

 

 

プラスチックは安全!?

 

食品をいれる容器や子供が遊ぶおもちゃから

 

プラスチックから何か溶け出して、

 

体内に入るのではないかと心配する人もいます。

 

それに対して、プラスチック業界は

 

仮に溶け出しても、

 

安全性は十分配慮されているので

 

心配ないと答えています。

 

しかし、プラスチックにの中には

 

その危険性が指摘されている

 

成分もあります。

 

その一つが、ポリカーボネートや

 

エポキシ樹脂の原料として

 

使われるビスフェノールA(BPA)です。

 

動物実験では、脳や前立腺、

 

乳腺などへの影響が報告されていて、

 

環境ホルモンの疑いがあります。

 

環境ホルモンとは、

 

内分泌撹乱物質のことで、

 

正常なホルモンの働きを乱します。

 

特に、胎児や子ども、妊婦に

 

悪影響を与える可能性があると

 

考えられている物質です。

 

ポリカーボネートは

 

食品容器や哺乳瓶に使われていて、

 

エポキシ樹脂は缶詰の内側の

 

コーティングなどにも使われてるので、

 

欧米では「BPA不使用」

 

を謳った商品も登場しています。

 

しかし、BPAの代替物として使用されるようになった

 

ビスフェノールSなども

 

最近ではその安全性が疑われ始めています。

 

また、よく問題になる化学物質に

 

ポリ塩化ビニル(PVC)の可塑剤として使われる

 

フタル酸エステルがあります。

 

プラスチック製品には、

 

色付けするための着色剤、

 

劣化を防ぐための安定剤など、

 

様々な添加剤が使われています。

 

これらの添加剤は、

 

ただ加えられているだけなので、

 

プラスチックの成分と化学的に

 

結合してはいないので、

 

時に溶け出すことがあります。

 

PVCはもともと硬い素材です。

 

それを軟らかくするために使われるのが

 

フタル酸エステルなのですが、

 

生殖毒性(生殖機能の異常、

 

生まれる子への有害な影響など)

 

や発がん性が疑われています。

 

そのため、欧米や日本では、

 

子ども用品への使用が規制されていて、

 

EUは2020年7月以降、

 

日用品全般に規制対象を

 

拡大することを決定しています。

 

このほか、ペットボトルの製造に

 

触媒として使われる三酸化アンチモンには、

 

発がん性が疑われ、

 

様々なプラスチック製容器から

 

検出が報告されたノニルフェノール(NP)には、

 

環境ホルモンの作用があると

 

言われています。

 

また、フライパンの焦げ付き防止加工に

 

使われている有機フッ素化合物のうち、

 

PFOSは2009年、

 

PFOAは2019年5月に

 

それぞれ有害性が認められて

 

国連によって禁止されました。

 

(参考文献:インフォビジュアル研究所著・「14歳からのプラスチックと環境問題」)

 

 

 

自然界も生態系も巡り続けるプラスチック

 

私たちが作り出して、消費した

 

プラスチックは、

 

今も休まず巡り続けています。

 

生態系である人から自然界へと

 

出されたプラスチックは、

 

なくなることなく、

 

私たちの見えないところでも

 

たくさんの被害を与えています。

 

マイクロプラスチックとなって、

 

最終的には、プラスチックごみを出した

 

人間のもとへと戻ってきます。

 

普段意識できていないところでも

 

たくさんのプラスチックごみを

 

自然界へと出している現代生活。

 

生態系のたくさんの生物が

 

その命を持って私たち人間に

 

たくさんのことを教えてくれています。

 

今、報道されていたり、

 

私たちが知っていることは

 

まだまだ氷山の一角でしかありません。

 

いろんな問題が明るみになってきている

 

今から、できることはたくさんあります。

 

ウイルスなどの問題や、

 

その他いろんなことが起きていますが、

 

人類が自然と反することを

 

推し進めてきたことも

 

その一因である部分も

 

あるのではないでしょうか。

 

地球も生きています。

 

自然界すべてが生きています。

 

その意識を少しでも持ってみては

 

どうでしょうか。

 

いろんなものの捉え方や

 

見え方が変わってくるかもしれませんよ!

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